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~第十一話 村雨兄弟とタイガー①~ スーパー・ラバットはみんなの人気者

Author: 倉橋
last update Last Updated: 2025-08-14 12:10:28

 スーパー・ラバットは悠馬の家族になった。どんな関係?

 もちろんウサギと飼い主なんて平凡な関係ではない。

 悠馬はケージを買ってきて庭に置いた。そこがスーパー・ラバットの住み家になるはずだった。

 悠馬は学校から帰ると、スーパー・ラバットを散歩に連れていく。

 散歩に連れて行くとすぐ立ち止まり、悠馬の方を見つめて動かない。悠馬が腰を落としてのぞきこむと、すぐに悠馬の胸に飛び込んでくる。結局、スーパー・ラバットと悠馬の散歩というのは、悠馬がスーパー・ラバットを胸に抱いて近所を歩くことだった。

 この散歩は、随分と人の役に立っている。

 大声で泣いている小さな子どもがいれば、すぐにスーパー・ラバットを連れていき、涙を幸せな笑顔に変えていた。

 彩良先生や今日華先生とボランティアに通った幼稚園や保育園にまで、スーパー・ラバットを連れていった。

 今ではそれ以外に、近所のおばあちゃんとか、学童保育の子どもたちとか、スーパー・ラバットのファンもたくさん出来ている。

 みんなの笑顔を見られるのは、悠馬にとって二番目に嬉しいこと。

 一番嬉しいことって何?

 それはスーパー・ラバットのことを褒められること。

 どうしてかって? まるで恋人を褒められたみたいに、胸を張ってみたくなるからである。

 ところがひとつ問題が出てきた。夜、スーパー・ラバットをケージに入れて家に入ろうとすると、悲しそうにずっと悠馬の方を見るのである。フーフーッと、いつまでも小さな鼻声を長く響かせる。

 そのまま、家に入ることなんか、悠馬は出来ない。悠馬が振り返ると、スーパー・ラバットはじっと悠馬の方だけを見ている。

 結局、もうひとつ、屋内用の小型のケージを買って、勉強部屋に置くことにした。母が帰ってきたら、絶対何か言われるのは間違いなし。

 それでもなぜか、スーパー・ラバットとは、出来るだけ一緒にいたい。今では悠馬まで、そんな気持ちになっていた。

 それからもうひとつ、不思議なことがあった。

 最初の夜。悠馬ははひとりでベッドで寝ていたのだけれど、いつのまにか、スーパー・ラバットが悠馬の隣で白い体を丸めていた。特にケージに鍵をかけていたワケじゃない。それでもやっぱり、ちょっとだけミステリアスだった。

「一緒に眠りたいの」

 悠馬が声をかけると、スーパー・ラ
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